猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

私たちが時間の経過に気づいたのは、お手伝いの曽根崎さんが夕飯を知らせに来たことで、私は大慌てで自宅マンションに帰ることとなった。
時刻は19時過ぎ。大変だ。まだ薄明るいから時間の感覚がかなりズレていた。

「もう!これ羽織って行きなさい。近いんでしょう?」

着替える時間も惜しい私に志信さんが自分のパーカーを放ってくれる。

「ありがとうございます!お借りします!」
「こっちの片付けはいいから、早く帰んなさいよ!」

志信さんに頭を下げ、信士くんに手を振り、私は金剛家を後にした。
サンダルにびしょぬれのショートパンツとTシャツ。上から大きめのパーカーを羽織っただけで都心を駆け抜ける私はいささか変な女に見えただろう。格好が海の家状態だもの。でも、そんなことにかまっている暇はない。

三実さんは何時に帰ってくるだろう。夕食は食べると連絡があった。昨日買っておいた干物を焼いて、後は煮物を作る予定だったけれど、時間がないから変更だ。
エントランスに飛び込み、カードキーでロックを外し、最上階へ。
部屋の前に人影を見つけ、それが三実さんだと気付き愕然とした。
私の方が遅くなってしまった。お米も炊いていないのに。

「三実さん!」

声をかけると、今まさに鍵を開けたところの三実さんが、私を見つめて固まった。ぴしっと動かない。