猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「新しいマンションかあ。若奥様、幸せじゃねえか」

鶏舎を掃く私に、植松さんが言う。植松さんの手には生みたて卵が籠にたくさんだ。
今日はお休みなので植松さんのところへ手伝いにきている。もう少しすると信士くんが帰ってくるだろう。

「幸せだとは思いますが……」

でも、『触れない』宣言されちゃったんです。とは言えない。
今朝は、三実さんに朝食を作り、お仕事へ見送った。三実さんはいたって元気で、普通で爽やかで……。お門違いだろうけれど、そんな彼を小憎らしくすら思ってしまう。
植松さんが会話の方向を変えて言う。

「信士くんか。あの子は今朝も挨拶に来てくれたよ。素直な良い子だなあ。だけど、あの母子がいたら、若奥様の気が休まらないだろ」
「私はいいんですけれど。信士くんに早く安心できる環境を整えてあげたいとは思います」
「あの子の母親がねェ」

植松さんが眉をしかめて言う。長く勤めている植松さんも、志信さんの起こしたいざこざはよくわかっているのだろう。

「そうそう、今度、旦那様の誕生会をやるんだって?」

植松さんがまた話を変えるので、私は合わせて頷いた。

「そうなんです。一久さんのご一家、次郎さんのご一家も全員集まるそうですよ」

お義父さんのお誕生日会は金剛家では毎年恒例の行事だそうだ。子どもと孫が勢ぞろいということで、私と三実さんも当然出席だ。