猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「優しくすべきところでできなかった。おまえより一回りも上なのに、自制が効かず恥ずかしく思っているよ」
「嫌だとは思いませんでした」
「優しいな。おまえが拒否していたのに、強引に事を進めてすまなかった。そこでだ」

三実さんは言葉を切って、私から一歩距離を取った。

「俺は修行をやり直そうと思う。幾子が完全に俺に惚れてくれるまで、性的な意味合いでおまえに触れることは慎もう」
「え?ええ?」
「優しい幾子は我慢の効かなかった俺を許してくれた。しかし、このままなし崩しにおまえを我が物にし続けていいのか?まだ幾子は俺を愛しているわけじゃないのだから」

笑顔でハキハキ喋る三実さんは、すでに決意に満ちている。呆気にとられ、挟む言葉を探している私をよそに爽やかに誓うのだ。

「幾子が心から俺を受け入れたくなるまで、俺は相応しい距離で、良き夫になれるよう尽くそう」

……どうしよう。私の旦那様は、やっぱり変人で考え方が予想の斜め上で私が口を挟む余地のない人なんだけど……。

ここで、私が『あなたを愛しています。気づいたんです。抱いてください!』と言えば、三実さんは『そうだったのか!幾子!俺たちは相思相愛だ!』なんて叫んで、私を抱き寄せてくれるだろう。想像がつく。絶対にそう。

だけど、そんなことを軽々しく言える私じゃないのよ。三実さんに愛してると伝えたい一方で、恥ずかしくて自分からそんなことを口に出せない私がいる。
早く伝えてあげなきゃ、また彼を孤独にする。
それに、私だって三実さんに触れてほしい。抱かれたいという生々しい欲求より、手を繋ぎたいとか、抱き締められたいとかそういう子どもみたいな気持ちだけど、『触れない』と言われたら悲しい。

「さあ、幾子。一緒に寝よう」
「は、はい」

私は三実さんの笑顔に引きつった情けない笑顔を返し、彼の隣に横たわった。タオルケットを首まで引き上げ、隣をちらんと見つめる。三実さんの背中が見えた。
ああ、こっちを見てくれない。虚しいような寂しいような気持ちで私は室内のライトを消した。