猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「出汁をわざわざ取ったのか?手間がかかっているな」
「お口に合いますか?」
「合うさ。幾子の作ったものなら、大概食べられると思っていたが、上手で驚いた」

お世辞じゃない。真心を込めて褒めてくれていると思うと嬉しかった。

「お肉のお味も濃くないですか?」
「ああ、味は」
「味以外は?」

かぶり付きで尋ねてしまったせいか、三実さんが笑った。

「もう少し量が多くてもいいと思ったんだ。こう見えて、健啖家で通っていてね」
「あ、少なかったんですね!すみません!」

実家ではよく諭と食卓を一緒にしていたけれど、量までは見ていなかった。考えてみたら、私と同じ量で足りるはずがない。

「具体的にはどのくらいがいいですか?」
「そうだな。ステーキに換算したら一ポンドステーキが二枚くらいかな」
「……900グラム……」

愕然とする私に三実さんが笑った。

「すまない、極端なことを言ったな!毎日そんなに食べていては太るし、実際は今日の量の倍程度でいい」
「はい、すみません。ごはんでしたらありますので。お海苔とか卵も」
「ありがとう、大丈夫だ」

答えた三実さんが、ふっと優しく微笑んだ。
なんだろうと覗き込むと、私に視線を移して言うのだ。

「いいな。新婚という感じだ」

端正な顔立ちが、柔らかく優しく緩み、頬がわずかに赤くなっている。幸せ。言葉にするならそんな雰囲気が漂ってくる。
ぶわっと顔が熱くなるのを感じた。
駄目だ。三実さんが格好良過ぎる。この恋に自信がないなんてよく言えたものだ。三実さんの言葉にも行動にも表情の変化にも惹きつけられてドキドキしている私がいる。
私、三実さんに恋をしている。彼が幸せなら私も幸せになれるのだ。