猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

帰り道に買いものをする。この辺りは都心部のど真ん中なので、買い物をできるスーパーは少ない。
本当のところ、自分で料理をするために買いものをするのは初めてだ。
料理は和食と洋食の先生について習い、家では寒河江さんが補足で教えてくれた。買い物は寒河江さんが常に一緒だったんだもの。

今日の夕食と明日の朝食は、お昼休みに計画しておいた。携帯で買い物メモを見ながら小さなスーパーで買い物を済ませる。
お肉やお魚なんかは専門店かデパ地下で買った方がいいのかしら。そのあたりは今後の検討事項にしよう。

両手いっぱいに荷物を抱え、マンションに帰宅すると、すでに十九時近くだ。三実さんは二十時過ぎには帰ると連絡が入っていた。
時間はないけれど、今夜はさほど難しいことはしないように考えている。味噌汁を準備し、野菜を何種類かボイルしてサラダを作る。二十時近くになったら、焼き肉用の牛肉をフライパンで焼いた。二十時過ぎに三実さんが帰って来たときには食卓はほぼ整っていた。

「美味そうだ。幾子の手料理は初めてだな」
「手が込んでなくて申し訳ないです」
「充分だ」

メニューは焼肉、温野菜、味噌汁とごはんだ。
夏用のジャケットを部屋に置いてくると、手を洗い三実さんが食卓に着く。
初めて料理を食べてもらうということがこれほど緊張するとは思わなかった。向かい合わせに座りながら、三実さんの顔が真っ直ぐに見られない。

「いただきます」

三実さんが食事を口元に運ぶのを盗み見る。
すべてシンプルなメニューにした。味付けに気を遣うようなものではない。だけど、味噌汁の塩気やごはんの固さまで、彼の気にいる食卓になっているかが気になる。

「うん、美味い」

三実さんがぱっと表情を明るくする。