その日は、一日中社内のどこにいても視線を感じた。自意識過剰というわけじゃない。本当に露骨に視線を感じる……。金剛グループ本家三男でこの会社の社長の結婚は皆知っていても、いつの間にかその妻が会社のすみっこで働いていたとは思わなかっただろう。知っていたのは、麻生夫妻と、三実さんの秘書さんくらいだ。
「幾子ちゃん、人気者になっちゃうねえ」
麻生さんがのん気に言い、由美子さんに叱られていた。
「社長、本当は早く言いふらしたかったんだと思うわよ」
そういうものなのかな。私みたいな子どもが妻で、三実さんは恥ずかしくないのだろうか。
ようやく退勤の十六時半になると、私は早々に会社を出た。
急いで帰宅し、お米だけセットして金剛家に向かう。
「幾ちゃん!」
離れに入ると、奥から信士くんが飛び出してきた。そのまま抱きつき、私のお腹に顔を埋めてくる。
「いなくなっちゃって心配した」
胸がじわっと熱くなる。私は信士くんの頭を撫でて謝った。
「ごめんね。私、別なおうちに引っ越したんだ。でも、信士くんとは遊べるからね」
「本当?」
「ほんと、ほんと。今日の宿題は終わってる?プール膨らませちゃおう」
今日は鶏舎に行くのはやめて、離れでプールの準備をすることにした。
離れの縁側に面した小さな庭にプールを置ける。日は高いけれど、今から水を張っても水温が上がらないので、水遊びは明日の約束にした。
水鉄砲を箱から出しながら、信士くんはぽつりぽつりとここ二日の話をしてくれる。
「お母さん、イライラしてるみたい。三実おじさんと喧嘩してたし、ひとりになってもずっと怒ってた」
「幾子ちゃん、人気者になっちゃうねえ」
麻生さんがのん気に言い、由美子さんに叱られていた。
「社長、本当は早く言いふらしたかったんだと思うわよ」
そういうものなのかな。私みたいな子どもが妻で、三実さんは恥ずかしくないのだろうか。
ようやく退勤の十六時半になると、私は早々に会社を出た。
急いで帰宅し、お米だけセットして金剛家に向かう。
「幾ちゃん!」
離れに入ると、奥から信士くんが飛び出してきた。そのまま抱きつき、私のお腹に顔を埋めてくる。
「いなくなっちゃって心配した」
胸がじわっと熱くなる。私は信士くんの頭を撫でて謝った。
「ごめんね。私、別なおうちに引っ越したんだ。でも、信士くんとは遊べるからね」
「本当?」
「ほんと、ほんと。今日の宿題は終わってる?プール膨らませちゃおう」
今日は鶏舎に行くのはやめて、離れでプールの準備をすることにした。
離れの縁側に面した小さな庭にプールを置ける。日は高いけれど、今から水を張っても水温が上がらないので、水遊びは明日の約束にした。
水鉄砲を箱から出しながら、信士くんはぽつりぽつりとここ二日の話をしてくれる。
「お母さん、イライラしてるみたい。三実おじさんと喧嘩してたし、ひとりになってもずっと怒ってた」



