「三実さん、おうちのことは頑張ります。でも、金剛家に顔を出してはいけませんか?」

三実さんが訝しげな表情になる。せっかく金剛から離れたのに、と思っているのだろう。でも私にも事情がある。

「鶏舎のお手伝いは、私の大事な日課なんです。大きくなってきたひよこの成長を見たいですし」

言葉を切って、三実さんの瞳を覗きこむ。

「信士くんを日中あの家に置き去りしておきたくありません」
「幾子、おまえというやつは」

信士くんへの嫉妬を隠さない三実さんに、言うか迷ったけれど、ここは飲み込んでもらわなければならない。

「午前の塾が終わると、信士くんは志信さんが帰ってくるまで、知らない家にひとりきりです。おもちゃがあるわけでも、仲良しの友人がいるわけでもない。私、信士くんと遊ぶ約束をしてるんです。一緒に鶏の世話をして絵日記を書こうと言いました。プールもきっと離れに届いています」

珍しく多弁に語る私に、三実さんが瞳を眇める。不満げではない。驚いているようだ。

「私は信士くんと遊びます。この家のことは万事うまくいくようにしますので、どうか許してください」
「この件は、俺が強く言っても聞かなさそうだな」

三実さんは嘆息して、それからふっと微笑んだ。

「嫉妬はしてしまうが、幼い少年に優しい幾子は、とても魅力的だ。いいさ、行っておいで」
「ありがとうございます!」

よかった。これで信士くんに寂しい想いをさせることがなくなる。三実さんの温情に感謝だ。