「まずは幾子、長らく志信のことで煩わせてすまない」

三実さんが頭を下げるので私は慌てた。煩わされるというより、勝手に嫉妬していただけなのだ。口に運びかけたクロワッサンを置いて言う。

「いえ、私はそれほど気にしていませんので!」
「いや、夫としてすまないことをした。窮屈な想いをさせたな。志信にも信士にもいい方法を取れるように調整している最中だ。遠くない将来、彼らはあの家を出るだろう」
「でも、お義父さんがお客様としてお招きしている形なんですよね」

だから志信さんは堂々と金剛家にいたのだ。お義父さんが離れの近くに客間を用意したり、夕食を一緒になどの提案をしてきたのも、もてなせという意味だったのだろう。

「幾子は本当に人が好い。あれは親父がおまえを試したんだ。本妻としての采配を見たがったのさ」
「え!?そうなんですか」

思わず大きな声が出て、自分の口元を押さえてしまった。お義父さんのびっくりする提案は、私を嫁として試していたからなの?

「結果、おまえは闘わず、あの凄まじい志信と共存を選んだ。信士を手懐け、志信とも争わず上手くやっている。親父としては及第点だろう。しかし、俺はおまえのストレスを考えるとあのまま金剛家にいさせたくなかった」
「それで新居ですか」
「どの道、落ち着いたら出るつもりだったんだ。この件で早まった」

それにしても相変わらずなんでもひとりでぱっぱと決めちゃう人だ。
圧倒されてばかりもいられず、一応言ってみる。