金剛家の邸宅はやはり広く、しんと静まり返り、この平屋の和風建築のどこに他の家族がいるのか見当もつかない。

お手伝いさんに案内されたのは、三実さんの居住スペースである離れだった。
離れは居間があり、寝室があり、書斎がある。縁側があり、バスルームもトイレも独立していて、ここだけでかなり広い。
そして、三実さんはまだ帰っていないようで静まり返っていた。

居住空間に入った途端、ふと違和感を覚えた。
まただ。
また、妙な感覚だ。

この生活スペースには生活の匂いがしない。無機質で、寂しい。三実さんは忙しくてなかなかここに戻ってこない人なのだろうか。
それとも生活していてもこんな感じなのだろうか。毎日お手伝いさんが掃除をするからという理由ではない。ここには人の温かみがない。

『幾子様、お腹は空いていらっしゃいますか?』
『いえ、いりません』

お手伝いさんに聞かれ、私は慌てて首を振った。たいして食べられなかったけれど、今は何か食べたい気分でもない。

『左様ですか。お茶をお淹れしましたら、私どもは本宅の方へ戻ります。内線電話でいつでも参りますので、ご不便がございましたらご連絡くださいませ』
『あ、はい』

ひとり離れに取り残されると、またしても不安がひたひたと足元を濡らしていく。
大丈夫。頑張るってお母さんにも言ったじゃない。
いきなり環境が変わって不安なだけ。落ち着いて、落ち着いて。三実さんは優しい人。彼が帰ってくれば安心するに違いない。

お風呂が沸いていたので入り、寝間着の浴衣に袖を通した。