「幾子!」
「幾子、おまえは部屋にいっとれ!」
三実さんと諭が同時に叫んだ。諭は兄の立場を強調したいのか、珍しく私を呼び捨てのままだ。
すると、私を制して前に出たのは、父だった。
「三実くん、幾子と話はさせます。しかし、この子が帰りたくないと言うなら、私も兄の諭も返す気はない」
毅然とした言葉だった。私は父がこんな態度に出ると思わなかったので、少なからず驚いた。そっと視線を移す。三実さんが切羽詰まったような表情で私を見ていた。
「幾子……」
私は居たたまれない気持ちでそっと進み出た。うつむき加減になってしまうのは、面と向かって彼のことを見られないから。
まだ全然心の整理がついていない。こんなに早くお迎えに来られるとは思わなかった。
そして、昨夜抱き合ったばかりだという事実に、勝手に頬が熱くなっていく。
すると、私の反応など待つことなく、三実さんがずさっと土間に膝をついた。私たち三人が驚く中、そのまま玄関先で土下座をしたのだ。
「幾子、すまなかった!俺を捨てないでくれ!」
全員が仰天した。いきなり嫁の実家で土下座って……。
「三実さん、やめてください」
私は慌てて土間に降り、垂れた彼の頭を持ち上げようと肩に手をかける。
三実さんが身体を起こし、私の手を握った。燃える野獣の瞳はそこにない。不安げに揺れる子どものような目がある。
「幾子、おまえは部屋にいっとれ!」
三実さんと諭が同時に叫んだ。諭は兄の立場を強調したいのか、珍しく私を呼び捨てのままだ。
すると、私を制して前に出たのは、父だった。
「三実くん、幾子と話はさせます。しかし、この子が帰りたくないと言うなら、私も兄の諭も返す気はない」
毅然とした言葉だった。私は父がこんな態度に出ると思わなかったので、少なからず驚いた。そっと視線を移す。三実さんが切羽詰まったような表情で私を見ていた。
「幾子……」
私は居たたまれない気持ちでそっと進み出た。うつむき加減になってしまうのは、面と向かって彼のことを見られないから。
まだ全然心の整理がついていない。こんなに早くお迎えに来られるとは思わなかった。
そして、昨夜抱き合ったばかりだという事実に、勝手に頬が熱くなっていく。
すると、私の反応など待つことなく、三実さんがずさっと土間に膝をついた。私たち三人が驚く中、そのまま玄関先で土下座をしたのだ。
「幾子、すまなかった!俺を捨てないでくれ!」
全員が仰天した。いきなり嫁の実家で土下座って……。
「三実さん、やめてください」
私は慌てて土間に降り、垂れた彼の頭を持ち上げようと肩に手をかける。
三実さんが身体を起こし、私の手を握った。燃える野獣の瞳はそこにない。不安げに揺れる子どものような目がある。



