猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

言いだしたら止まらない。私は怒りに任せて怒鳴り続ける。目尻に涙が浮かんできた。悔しい。悲しい。今までの気持ちが全部めちゃくちゃに頭の中を回っている。

「諭の方が大事なんでしょう!?好きな人との息子だもんね!それなら、諭の立場だって公に認めなさいよ!私のことも諭のことも、私たちの母親のことも、全部全部面倒事や外聞の悪いことは隠して無かったことにして。ムシが良過ぎるのよ!」

父は驚愕の表情で固まった。私が諭との血縁関係を知っているとは思わなかったようだ。見る間に顔が青ざめる。

「私のことなんか必要ないくせに、こういう時だけ父親ぶらないで!」

言い切って、私は肩で息をしていた。
きっと怒鳴り返される。叩かれるかもしれない。今すぐ出ていけと追い出されたって、絶対に言うことなんか聞くもんか。

しかし、次の瞬間、睨みつけた先の父の目からぼろっと涙がこぼれた。
え?泣いてる!?
私は動揺して、父の顔から目が離せなくなった。

「幾子を……大事じゃないなんて……必要ないなんて思ったことはない」

父はぽろぽろ子どものように涙をこぼしながら言う。

「おまえと琴子にひどいことをしたと思っている。諭にも肩身の狭い思いをさせていると思う。すべては俺の勝手のせいだ。すまない。だけど、幾子をいらないと思ったことはない」
「お父さん……」

そんなわけない。父は最初から私のことが嫌いだったんだ。母親に似ていて、母親の元で育った私のことが。だけど、私は直接父に拒絶されたことは一度もないことに思いいたった。