猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

メッセージアプリには意外なことに一件だけメッセージが入っていた。

『幾子、戻ってきてくれ』

それを見た瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。三実さんが私のことを探している。戻ってきてほしいと呼んでいる。

だけど、今は帰りたくない。
あんな形で肌を合わせてしまったことに混乱しているし、少なからず彼を憎く思う感情もある。

ひどい。怒りと苛立ちに任せて強引に押し倒すなんて。
ずるい。肝心なところですがるなんて。

私はきちんと三実さんと合意の上で抱き合いたかった。初めての夜なのに、大事にしていたのに。
なにより、やっと気づいた気持ちを彼に伝えていない。
それが一番悔やまれる。もっと早く気付けばよかった。そして言葉にすればよかった。

『あなたが好き』だって。

そうすれば、三実さんはあんな強引なことはしなかっただろう。三実さんを孤独にしたのは私の罪だ。

「三実さん」

胸が苦しい。
しばらく会いたくないと思いながら、ものすごく会いたい。
彼の腕の中の温度、匂い。圧倒的に征服され、翻弄されながら、私は確かに幸せを感じていた。
ああ、人を好きになるってこういう気持ちなんだ。
歯がゆくて、痛くて、切なくて、だけどどうしようもなく幸福で。

メッセージの返信はしなかった。早く東京に戻らなければと思いつつ、頭の整理はまだできてい
ない。