部屋はあの日出て行ったときのままだ。正確には綺麗に掃除されてはある。
私のベッドなどはそのままだし、後から送ってもらおうと思っていたので多くの私物が残っている。

「幾子お嬢さん、言ってくれはったらお布団干しといたのに~」

父を見送ってから追いかけてきた寒河江さんが悔しそうに言う。

「寒河江さんありがと。充分よ」

言いながら私はベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。それ以上、会話するのが本当に苦しい。身体がくたくただ。

「いややあ、疲れてはる~。わかりました。とりあえず寝てもろうて。ね?」

中学生からお世話になっているお手伝いさんだ。私が多少不作法をしても、子どものすることという目線で許してくれる。私は甘える気でここにきた。

「お昼ごはんのときにお声かけますからね」
「はあい」

ドアが閉まるか閉まらないかで意識は飛んでいた。私は再び泥のように眠った。


次に目覚めたのは昼。
自然と覚醒した私はのろのろとシャワーを浴びに行った。
身体中が痛かった。乱暴されたわけじゃない。だけど、全身がぴきぴき痛い。身体を繋ぐ行為はすごく疲れるものなのだと実感する。

脱衣所でワンピースを脱いでぎょっとした。
鎖骨から胸にかけて、赤い痕がいくつもついている。これは、所謂キスマークというやつじゃないの?
余裕がなかったから覚えていないけれど、あちこちに口づけられたのは覚えている。その時だ。
他にどこにあるだろう。きょろきょろと鏡と自分の身体を見比べ、耳の下にも見つける。
これは髪の毛で隠れそうだけれど、鎖骨あたりのものは角度によってはワンピースからも見えてしまうに違いない。なんでこんな危ないところにつけたのだろう。

キスマークの意味は所有印だと聞いたことがある。三実さんは私を『我が物』と主張したいがためにこんなにたくさんの痕をつけたのだろうか。見えてしまってもいいという位置にまで。