三実さんが布団に座る。手をつき、じりと私に身体を近づける。腕が伸びてきて、反射的に私は手を後ろにつき、身を引いた。その行動が彼を傷つけると頭ではわかっていながら。
「三実さん……」
「結婚してふた月、忍耐も修行もそろそろ限界だ。幾子を俺のものにしたい」
暗い室内に光る彼の双眸。燃えるような獣の瞳が私を捉える。逃がすまいという切迫した空気を感じる。
怖い。だけど、今の私なら言えるはず。三実さんと距離を縮め、ゆっくり夫婦になろうとしてきた。この人は私の伴侶なのだ。
「今はまだ、応じたくありません」
三実さんがくっと自嘲的な笑いを漏らした。表情は酷薄に歪み、ぎらぎら燃える瞳が苦しげに細められる。
「婚約者に隠し子、やはり俺が嫌になったか?」
私は必死に首を振った。そんなわけがない。
「まあそうか。最初から俺の片想いだ。わかっていたさ」
「三実さん」
「志信の言う通り、幾子は俺から解放されたがっているのか?」
そんなわけないじゃない。どうしてそこで志信さんの名前が出てくるの?
どうして彼女の暴論を引用できるの?
私はあなたを夫として信頼しているのに。だから志信さんについて何も言わなかったのに。
そんな言葉聞きたくなかった。
志信さんの言葉を信じて私を疑うようなことを言うなんて。
悲しみと怒り、ここ最近の不満がいっきに噴出した。
私は精一杯三実さんを睨みつけた。涙が目尻からどっとこぼれた。
「そうかもしれませんね」
瞬間、三実さんの手が私の腕を掴んだ。引き寄せられ、抱き締められる。



