すると、そこへ兄が顔を出した。

愛香(まなか)、いつまでやってんの?」

「えっ、いつまでって… 」

え!?

私の隣に立った兄は、さらりと自然に私の腰を抱き寄せた。

兄にそんなところを触られるのは初めてで、どうしていいか分からない。

「あのさ、わざわざ会いに来たところ
 申し訳ないけど、愛香は俺のだから、
 帰ってくんない?」

ええ〜!?
な、何それ!?

驚き過ぎた私が二の句を継げないでいると、白川さんはキッと私を睨んで言った。

「他に男がいるならいるって
 言えばいいじゃないか。
 思わせぶりな態度で人の気持ちを
 もてあそんで!」

「えっ、だって… 」

私、もう3ヶ月も断り続けてるよね?
なんでそんなこと言われなきゃいけないの?

白川さんは、私に反論の余地も与えず、バタンとドアを閉め……たかったようだが、うちのドアはゆっくりとしか閉まらないようになってるので、それも出来ず、スゴスゴと帰っていった。



 白川さんが去ってドアが閉まると、兄は私の腰から手を離し、玄関に鍵を掛けた。

 私はというと、そのまま上がり框で立ち尽くして動けない。

 だって、お兄ちゃんとは小学生の頃に手を繋いだきりなのに、腰なんて抱かれて、もうドキドキが止まらなくてどうしていいか分からないんだもん。

 ところが、鍵を掛けて振り返った兄は、怖いくらい怒っていた。

「愛香、
 なんだよ、あのストーカー紛いの男は」

「え、だから、元カレ?」

「そんなことは分かってるよ。
 なんでこんな風に家に押しかけてくるまで
 放置しておいたんだって言ってるんだ」

兄がこんなに怒ってるのを見るのは初めてで、またどうしていいか分からなくなる。

「ごめんなさい」

私は兄を見られなくてうなだれて謝る。

「いや、ごめん。
 悪いのは、愛香じゃなくてあいつだよな。
 分かってるんだ。
 分かってるんだけど、もし、あいつが俺の
 いない時に来たらと思うと、心配で…」

そう言うと、兄は私の長い髪にそっと触れた。

「さっきの様子だと、もう大丈夫だとは
 思うけど、もし、また接触してくるような
 ことがあったらすぐ俺に言えよ?」

そんなこと言われても…

私は俯いたまま無言で首を振る。

「だめだよ。
 お兄ちゃんに迷惑掛けられないよ。
 大丈夫。
 自分でちゃんと断るから」

私がそう言うと、お兄ちゃんは私の頭を小突いてきた。

「愛香、お前、俺の仕事、知ってるか?」

「………弁護士」

「そう。
 ストーカー対策は俺の専門分野だ。
 変な遠慮しないで任せておけ」

お兄ちゃんはそう言うと、私の頭をぐりぐりと力一杯撫で回した。