「れ、蓮さん?」



 由姫は謝罪の意味がわかっていないのか、それとも抱きしめられたことに戸惑っているのか、首をかしげている。



「……ありがとな」

「え? い、いえ……お礼を言われるようなことはしてないです」

 本当にそう思っていそうな声のトーンに、ふっと笑ってしまう。

 ただの顔見知りを身を呈して守るバカがどこにいるんだよ。

 ほんと……お前くらいだ。



「なぁ……」



 あんまり抱きしめていたら怖がられるかもしれないと、そっと体を離す。

 視界に映った由姫は、目も見えない分厚いメガネに、若干触ると固い黒い髪をした普通にいたら素通りするような女。



 それなのに――かわいく見えて仕方なかった。



 目がおかしくなったんじゃないかと、自分でも思う。

 でも、もうおかしくてもなんでもいい。


 俺はこいつが好きで、愛しくて、かわいくてどうしようもないんだ。