母の作る甘い卵焼きは、わたしが一番好きなもの。
自分で何度も作ったことはあるけれど、やっぱり母本人が作るものには到底かなわない。
…父がいたというのに、目を盗んで一生懸命作ってくれたのだろう。
わたしは希帆を避けていたように、母のこともどことなく避けてきていた。
…父の言いなりで居続ける母のようにはなりたくないと、真っ黒な感情を携えて明凛に入学した。
だから倒れた時も入院中も最低限の会話しかしなかったし、これからもそうだと思っていた。
――…それを変えたのもまた、希帆の存在で。
…母は希帆とわたしが部屋で笑いあってる声を聞き、廊下でひとり泣いていた。
「こんな日が来ると思っていなかった」と。…だから母もわたしの気持ちに気付いていたのだと思う。
そしてわたしは、「紗和はどうしてああなんだ」と
祖父と祖母のいないところで、母が父に罵倒されていたことを知った。