「…まぁ、だからこそ伊織には、こんな時にどこで何してんだって言いたいんだが」
「走って教室に入ってきて、ほんと風のようにいなくなっちゃったもんねぇ」
「晴人が委員長に告白したと知ったらどんな顔をするのか、見てみたくもある」
「底抜けに趣味悪いねぇ碓氷くん」
「佐伯さんを選んでるんだから趣味は良いと思うが?」
「………返事はもうちょっと待ってってば…」
――…伊織は今きっと、電車に乗っている最中かな。
希帆は伊織に会いたがっていたから、目を覚ました時に伊織が居たら喜ぶだろう。
「…ふふっ。ふたりとも、ありがとう」
その笑顔を最後に、
わたしは外していためがねをかけて
髪を再度しばりなおして
――…しっかりと、前を向いた。