「…。」
「伊織…?」
伊織はわたしを抱きしめてキスをしたのち
…いつもなら求めてくるのだけど、今はそれがない。
しばらくじっと顔を見られて、時計の秒針音だけが聞こえる世界に居た。
「紗和、今日の昼休み色々あったんだって?千尋が教えてくれたけど」
「…あ…、うん。ちょっとひなにひどい態度とっちゃって」
「どうしたの。委員長さんはそんなことする子じゃないでしょ」
「……うん。ごめん」
「紗和、おいで」
言葉少なにばつの悪そうなわたしを見て
伊織は何かを感じ取ったのか、優しい声でそう言った。
「おいで」
二度目のその優しい声は、わたしの涙を誘った。