夕方、勇樹からメッセージが届いた。

『検査終わった。いつでも来て良いよ。』

『消灯後に行く。』

今は私は実家にニート状態なので、晩御飯を作るのは私の当番だ。本日はつみれ鍋と鳥の甘辛から揚げ。そしてじゃこのっけ盛り和風サラダ。デザートはデパ地下の和菓子屋の桜餅だ。

「いや~莉奈がお料理当番してくれるから晩御飯が豪華になったね。」

「いつも市販の総菜でごめんなさいねぇ~。」

「うわっと、美由紀さん~そんなつもりはぁぁ。」

いつもお父さんとお母さんは仲良いよね。こんなやり取りも今日で見納めかな…。いやいや私には泣く資格なんてありはしない。

本来は夫婦2人で生活していた所に15才の大きな娘が割り込んで来たのだ。この世界の理を歪めているのだ。樫尾のご両親に何かマイナスな影響が出ていないといいのだが…。

「そうそう最近さ、莉奈のご飯食べると偏頭痛が治ってる気がするのよね。」

「あれ美由紀さんも?俺も腰が調子いいんだ。来週のゴルフコンペ楽しみだな~。」

そうかい、そうかいフフフ…。

実は先日からさり気なくご両親の体を治療し続けているのだ。地味に肩コリや腰痛…初期の風邪や、実はインフルエンザも菌を私の魔術で死滅させている。

言い方は悪いが勇樹の治療魔術の前の練習台にさせてもらっている。

こんなことならもっと早くからご両親に治療魔術を使っておけば良かった。

あれ今気が付いた。私…気にしていなかったけど…どうしてご夫婦なのに子供いないのかな?何か決めているのかそれともご病気なんだろうか…。

つみれ鍋を食べる2人を診てみる。お父さんに下腹部に魔力の濁りが感じられる。よし…。

お父さんがご飯のお代わりを入れに立ち上がった。今だ、お父さんの座っていた椅子に魔術印を描く。たまたま卓上に置いていた油性マジックだが気にしない。

素早く描き上げると、椅子の上に薄目の座布団を乗せて置いた。

お父さんは何も気にせずにそのまま椅子に腰かけた。座った途端、魔術印が光り輝きだした。

フフフ…治療してる治療してる…。

お父さんは自分の体の魔力の廻りが良くなったことに気が付いたみたいだ。

「あれ…??お尻にカイロ入れてたかな?お尻がアッタカイロ?なーんちゃって~!」

「…。」

「…。」

お父さんのオヤジギャグに鍋が急に冷え込んだ気がした。

冷え込むギャグはもういいから、おっさんはとっとと座っとけ!