は?

え?

「マヒ?」

いきなりのヘビーな話題に一瞬ポカンとしてしまった。だけど桃咲は笑っていて、重苦しい雰囲気なんて一切ない。

「色んな感情を過去に忘れてきたっていうのかな……。うれしいとか楽しい、寂しい、切ない、悲しい……そういう気持ちを全部忘れてたの」

「…………」

「でも、日向くんに出会って思い出した。一緒にいると色んな気持ちにさせられるんだ」

弱々しく笑う桃咲の横顔から目が離せない。守ってやりたい、こいつの隣にいたい。思いっきり抱きしめたい、今無性に。

「なんかあったのか?」

「なにも、ないよ。本当になにも。でもなにもないからこそ、息が詰まるっていうか……そういうことってあるよね」

あはは、と笑ってごまかす桃咲。その顔は傷ついているように見える。まるで今にも消えてしまいそうなほど儚い。

「日向くんとは、ずっとこうしていたいなぁ……」

空を見上げてポツリとつぶやいた桃咲の横顔は、なぜだか今にも泣き出しそうで。

「友達でいたい」

「とも、だち……?」

「うん、そしたらずっとそばにいられるでしょ?」

そんな切ないことを言いながら悲しそうに笑うなよ。

これってあれか。遠回しに俺のことを振ってんのか?

そうだよな……。純粋でいい子の桃咲が俺のことを好きになるはずがない。

今まで適当にダラダラ生きてきた。そんな俺が桃咲の力になりたいなんて無理なのか。でも俺にできることがあったらなんでもしてやりたい。桃咲のためなら、なんだってできそうな気がする。

友達でいることだって、きっと……。

「俺がずっと桃咲のそばにいてやる」

だからさ、そんな顔すんなよ。

「そしたら色んな気持ちになるんだろ? だったらずっとそばにいるから」

できればこの腕で抱きしめたいけど、まっすぐで無垢な桃咲を汚してしまいそうで怖かった。

「あり、がとう」

そう言って切なげに笑う桃咲に、俺は拳をギュッと握った。