走ってる途中でスマホが震えた。ポケットから出してみると画面に映る『桃咲』の文字。

思わずチャリを止めてその場でスマホ画面を凝視した。

電話、だよな?

とにかく出ないと。

震える指で操作し電話に出た。

『あ、日向くん? 突然ごめんね。今大丈夫?』

『うん、どうした?』

桃咲からの初めての電話に舞い上がる俺。それを声に出ないように必死に押し殺して平然としてみせる。

『えっと、あのね今日は学校祭で苑ちゃんがごめんね……気を悪くしてないかなって』

『いや、全然』

それよりも俺のほうが恥ずかしいセリフを吐いた気がする。

『それならいいんだけど。あはは、ごめんね、電話なんかして』

電話口の向こうでぎこちなく笑ってる桃咲の顔が浮かんだ。

こいつは色んなことに気を遣いすぎてる。俺の前ではありのままの姿でいてほしいと思うのはワガママなのか?

ざわざわと木々の葉っぱがこすれる音がスマホから聞こえた。

『今どこにいんの?』

『え?』

『外だろ?』

『あ、うん。家の近くの森林公園。バス停のすぐそばの』

は?

こんな夜に?