一年後、春。

「おめでとう!」

歩が乱暴に俺の頭を撫でた。卒業式を終えて大学の合格発表を控えていた俺たちは、叔父さんのカフェでそのときを待っていた。

そしてついさっき、ネットで発表された結果を確認したというわけだ。

「医学部に合格するなんて、やっぱりおまえはやればできる男だと思ってたよ! 今日はお祝いだなっ!」

「ま、当然の結果だけどな」

「うわっ、言ってみてー、そんなセリフ! 俺はギリギリだったってのに!」

「ふふ、天地くんも同じ大学に合格したんだからおめでたいじゃない」

カウンターの奥で佐々野が笑った。

「佐々野ちゃんは教育学部に受かったんだって? おめでとう!」

「ありがとう。日向くん、フレンチトーストとコーヒーでいいよね?」

「いや、すぐ出るからいらない」

「いやぁ、マジで今日はおめでたいよね。佐々野ちゃんも一緒に合格祝いしようよ」

「俺はパス。行くとこあるから」

そのときドアが開いて三人連れが入ってきた。

「日向くん、久しぶり!」

海堂が明るく笑って隣に座る。そして福島、美奈と続いた。ひまがいなくなっても、こいつらとの縁はなぜか続いている。

思い出すとまだツラいけど、あの頃よりは笑えるようになった。

「元気?」

「ああ、海堂は?」

「元気元気! 看護学部に合格もしたし、晴れて私も大学生だよ」

「へえ、福島は?」

「俺は薬剤学部だよ」

「あたしは栄養士!」

全員なにかしら医療に携わる職を選んだのは、ひまが関係しているんだと思う。

俺もひまのおかげで進むべき道が定まった。

忘れないよ、いつまでも。

おまえは俺にとってかけがえのない、たったひとりの人だから。

俺は立ち上がり、カフェを出た。見上げた空が青くて、自然と頬がゆるんだ。

今からひまに会いに行く。



優しく穏やかに春風が吹く、あの場所に──。











fin.