『晴くんへ

こんにちは、元気ですか?

これを読んでるってことは、私はもう晴くんの前にはいないってことだよね。

寂しいな。

優しいきみのことだから、今頃きっと胸を痛めているよね。

再発してから入院生活を送る中で、普通の生活がいかに普通じゃないかを思い知りました。

バスで一緒に通学してたのが、遠い昔のことのようだよ。

一緒にいられた時間は私のかけがえのない宝物です。

病気になってしまってごめんね。

たくさん泣かせちゃったよね。

ときどき赤く腫れた晴くんの目を見て、私までツラかった。

泣かせてしまったこと、本当にごめんなさい。

私のために泣かないで、いつまでもきみらしく笑っていてください。

それが私の最期の願いです。

今までそばで支えてくれてどうもありがとう。

きみに恋して、きみといられて、私はとても幸せでした。

そして、きみは私の希望の光でした。

抗がん剤治療がツラくて挫けそうなとき、晴くんの笑顔が元気の源だったんだ。

だからがんばって続けられたの。

もうそばにはいられないけれど──。

これから先も笑っててね。

晴くんの笑顔は、みんなを幸せにするから。

困った人がいたら、晴くんの笑顔で助けてあげてほしい。

私の光だったように、誰かの新たな光になってほしい。

ひだまりみたいに温かい素敵な晴くん。

私のことはどうか忘れてください。

そして、とびきり幸せになって。

たくさんの幸せを、そして初恋をありがとう。

ツラくなったら空を見上げて、そして笑って。

私はきみのそばにいるよ。

春風になって、私は晴くんのそばにきっといる。

あ、そしたら晴くんは私を忘れられないよね。

うーん、じゃあ、忘れてっていったけど訂正するね。

忘れなくてもいいよ。

年に一度、春になって四つ葉のクローバーが咲く頃に思い出してほしいな。

そのとき、私は必ず風になって舞い戻る。

晴くんの元に。

それでね、晴くんの幸せを見守り続けます。

晴くんがずっと、笑っていられるように。

だから絶対に幸せになって。

生きてたら、笑える日が必ずくるから。

ツラいときは誰かを頼って、弱音を吐いたっていいんだよ。

私のぶんまで生きて、そして幸せを見つけてね。

それじゃあ、またね。バイバイ』

「なんだよ、これ……っ」

病気で苦しんでたはずなのに、俺のことばっか。

バカだよ、マジで。

なんで俺の心配ばっか、してんだよ。

こんなときくらい弱音を吐いたっていいのに、ひまは……。

『生きて』

切実なひまの願いがその文字に現れていた。まるで俺が死にたいのを察しているような文面。それは胸にズシリと響いた。

「わかったよ……」

俺の……負けだ。

俺は空を見上げた。

そして引きつる頬を持ち上げる。ここ最近笑ってなかったせいで、筋肉がピクピク震えた。

今の俺のとびきりの笑顔が、天国にいるひまに届きますように。

そう願ってそっと目を閉じ、ただ風の音だけにじっと耳を澄ませた。