日記帳と手紙を受け取り、俺はぼんやりしたままひまとよくきた森林公園の芝生広場まで歩いた。そよそよ吹く風が気持ちいいはずなのに、心の中はぐちゃぐちゃだ。
ここでふたりで寝転んで空を眺めた。照れくさいセリフもひまが相手だと言えて、真っ赤になりながらうつむいていた横顔を思い出す。
幸せだったときの記憶がありすぎてツラい。こらえきれなくなった涙が、頬を伝った。
ひまの日記を読む覚悟なんて、俺にはない。だけど、読まなきゃいけない。ひまが一生懸命生きた証なら、俺だって立ち向かわなきゃ……現実に。
それは一冊の普通の大学ノートだった。去年の夏、日記をつけることにしたと言ってたひまの言葉を今になって思い出す。
何気なくページをめくると、かわいい字がそこには並んでいた。
最初のほうは俺の誕生日までの出来事。肌身離さずつけているこの革のブレスレットを、どんな顔で選んでくれたのかが想像できた。
日記といっても毎日ではなく、飛び飛びで気が向いたときにだけひまのかわいい字で記入されていた。
『2020年 10月15日
やっぱり身体がおかしい。
なんだか変だよ。
少し動いただけでも、息切れがする。
長く歩けない、走れない。
私、どうしちゃったの?』
『2020年 11月6日
晴くんとすごすはずだった誕生日。
それなのに私は病院のベッドの上にいる。
再発してるってわかってから、あっという間に今日まできた。
本当は別れたくなんかなかった。
他に好きな人がいるなんてウソ……。できるなら、きみの隣にいたかった。
でも、ごめんなさい。
晴くんを苦しめるくらいなら、私が悪者になる。
さようなら、晴くん。
どうして私だったんだろう。
抗がん剤が始まってめちゃくちゃしんどい。』



