その次の日、学校にいるとひまの母親から電話があった。直感でピンときて、学校を飛び出した。バクバクと心臓が壊れそうなほど鳴って、足がもつれて転けそうになる。

ちょうど昼休みだったこともあり、難なく学校を抜け出し病院に向かった。

駆けつけると病室の前にひまの両親がいた。泣き腫らした目で、肩で呼吸を繰り返す俺の目を見つめる。思わずそらしたくなるほど、その顔は苦痛に歪んでいた。

「晴くん……ひまちゃんに、会ってあげて」

「……っ」

もう本当に最期なんだな……。

嫌だ、さよならなんてしたくない……。

握りしめた拳がじっとりと湿っている。顔から血の気が引いていく感覚。このドアを開けたら、現実に直面する。足が鉄のように固まって動かない。

でも……俺は逃げたくない。

ガラッ。

ドアを開けると中央のベッドの周りに親族だろうか、埋め尽くされていた。

不安に押しつぶされそうになりながら歩を進める。

「ひま……」

虚ろな瞳がわずかに俺を見た気がした。たくさんの管に繋がれて、でもそれは全部ひまが必死に闘った証拠。

「わかるか? 俺だよ」

まだ温かい手を取りギュッと握る。誰もが皆、涙をこらえているのがわかった。

「ひま……!」

もう意識はなさそうだ。虫の息って、こういう状況をいうんだろう。見ているのがツラい。でも、目をそらしちゃいけない。

「ツラかったな、がんばったな……」

握った手はまだ温もりを失ってはいない。優しくひまの頭を撫でてやると、口元がほんの少しだけほころんだ気がした。ニット帽には俺があげたピン留めと、首元にはネックレス。

四つ葉のクローバーが好きだと言ったひま。

『どんな願いも叶えてくれる奇跡の葉っぱなんだよ』

じゃあひまを助けてくれ。

どんな願いも叶えてくれるんだろ?

お願いだよ……っ。

──ピーッ

まるで俺の到着を待っていたかのように、ひまの心臓は動きを止めた。心拍数がゼロになっているモニター画面を見て、目の前がグラグラ揺れた。

「うっ……ひま、ひま! 目を開けろ……っ」

お願い、だよ。

晴くんって、かわいく笑って名前を呼んでくれ。

「ひま……逝くなっ!」

涙が次から次へと頬に流れ落ちる。何度もそれを腕でこすって、ただひたすらひまの手をにぎり続けた。

「ひまちゃん……! 嫌よ! 起きて!」

「ひまり……!」

ひまの両親が肩を揺さぶる。しかし反応はない。力なくその場に座り込んで、床に伏せて泣いていた。

彼女に俺たちの声は届いていたのだろうか。そのあと静かに、穏やかに、そして眠るように息を引き取った。