「ひま!」

最期だなんて、もう会えなくなるなんて。

ベッドのそばに立ち顔を覗いた。浅く短い呼吸を繰り返し、目元がくぼんで鼻先がとんがっている。血色のよかったピンク色の唇は、青白くなっていた。

喉の奥が焼けるように熱くなり、鼻がツンとする。目頭が熱くなって目の前がボヤける。泣くな、笑え。

無意識に取ったひまの手はまだ温かかった。でもピクリとも動かない。

「ひま……っ目、開けて……頼むから」

「は、る、くん……?」

かろうじてうっすらと開いた目。

「泣いて、る、の?」

「泣いてない。笑ってるんだ」

涙を引っ込め、笑顔を浮かべる。

「ふふ、ほんと、だ……わた、しの、好きな、顔……」

近くの医療機器がピコンピコンと音を立てている。口には酸素マスクがされて、今のひまは全身管理がされている。

もう長くはない……。そう海堂に言った俺も、まだ受け入れられてはいなかった。でも……覚悟を決めろ。苦しいのはひまなんだ。

俺が悲しんでどうすんだよ。

「ずっとそばにいる。だから、おまえは……安心して眠れ」

「う、ん……ありが、とう」

ひまが眠りにつくまで手を握っていた。この温もりを忘れたくない。失いたくない。ぐちゃぐちゃの心が、ひまの温もりを少しでも取り込もうとする。

頬に手を添え、マスクを外し、眠っているひまの唇にそっとキスをした。涙のせいでしょっぱい味がする。ひまが優しく微笑んだ気がした。