「ダメなのよ……効かないの……先生にも、そう、言われたわ……ごめんね、晴くん……っ。もう打つ手がないの……」
「ウソ、だ……そんなの、ウソに決まってる」
なんで抗がん剤が効かないんだよ!
他のを試せばきっと治る。治るに決まってる。だって……治らなかったら、ひまはどうなるんだよっ。考えたくない結論が頭に浮かんで、胸が苦しくなった。
「ごめんね……っあの子を守ってあげることが……できなくてっ」
「な、んで……っ」
なんでひまなんだよ。ひまがなんかしたのかよ!どうして……。不意に目頭が熱くなった。俺の意志とは無関係に、スッと頬を伝って顎先からポタポタこぼれ落ちる。力なくその場にうなだれて涙を隠した。
男が泣くなんてみっともない。カッコ悪い。そう思うのに、突きつけられたあまりにも残酷な現実に次から次へと出てきて止まらない。
それから二十分ほど経って、病室の前で大きく深呼吸をする。
「あ、晴くん! おはよう」
いつもと変わらない明るい声。よかった、昨日よりは元気そうだ。朝だからなのか、顔色もいい。
ピンク色のニット帽に昨日まではついてなかったある物を見つけた。
「それ」
「あ、これね。お母さんに頼んで持ってきてもらったの。だってほら、ピン留めはつけるものでしょ?」



