「あ、あの、その人って今どこにいますか?」
「とりあえず午前中は検査だって伝えてお引き取り願ったけど、またきますって言ってたよ」
「…………」
期待に高鳴る鼓動。ううん、でも、そんなはずはない。
病棟に戻ると廊下を進んで車椅子で面会スペースの前を通った。太陽光がさんさんと降り注いで、キラキラした明るい空間がそこにはある。
「あ、いたいた。ほら、あの子」
自動販売機の前でちょうど飲み物を買おうとしていた広い背中。濃いダークブラウンの髪がフワッと揺れた。
そこから目が離せなくなって、何度もまばたきしてそこを凝視する。もう何度も見てきた広い背中に、息が止まりそうになった。
「声かける?」
「いえ。は、早く病室に戻ってください」
顔を見られないように下を向く。スウェットの上で固く握りしめた拳に爪が食い込んで痛い。
なんでいるの?
なんで……!
「でも、いいの?」
「はい!」
大丈夫、下を向いていれば私だとバレることはない。私はもう、彼が知ってる私じゃないんだ。
「ひま……?」
恐る恐る探るような低い声が聞こえた。ざわざわしているのに、やけにはっきりクリアだった。



