「よう」

後ろのドアからバスに乗った瞬間、背後から低い声がした。

私にかけられた声だとわかるのに数秒かかったのは、彼がいつもの定位置ではなく入口付近の吊革につかまって立っていたから。

立っていると身長があって上から見下される形になった。

それにスタイルがよくてますますカッコよく見える。

「こ、こんにちは!」

気が動転して思わず頭をペコリと下げる。まさかこんなに早く願いが叶っちゃうなんて。わー、どうしよう。緊張するよ。

「おう」

そんな私を見て日向くんは小さく笑った。その笑顔に鼓動がトクンと跳ねる。これから私の最寄りのバス停までの約三十分間、ずっと一緒にいられるんだと思ったらすごくうれしい。

流れで日向くんの隣に立って手すりにつかまる。今日は車内が混雑していて席が空いていなかった。

「わ」

バスがカーブを曲がる瞬間、車内放送で注意するように言われたにも関わらず足元がふらついて体が揺れた。

その拍子に空いていた距離がグッと縮まり、日向くんの胸に飛びこむ。さらには日向くんが不安定な私の体を片手で支えてくれた。

「大丈夫か?」

「!!」

あまりにも近い距離に日向くんの顔があってハッとする。