「どっちもね、ひまちゃんに似合いそうだと思って買ってきたのよ。ほらほら、かぶってみない?」

「それを選ぶ母さんの顔、めちゃくちゃ真剣だったんだぞ。ははは」

窓の外からビューッと震え上がりそうなほど強い木枯らしが吹いている。冬本番、ガタガタと揺れる窓を虚ろな目で見ていた。

「ねぇ、ひまちゃん。これはどう?」

顔を覗きこまれ、ゆっくりと視線を移す。そこには淡いピンク色のニット帽。私の髪は、きれいさっぱり抜け落ちてしまった。

無理して笑って明るくしようとしている両親の目の奥が悲しげに揺れている。

「あ、このモコモコ靴下はね、晶がひまちゃんに似合う柄を選んだのよ」

「そうだよ、僕、がんばった!」

「へぇ、そうなんだ」

笑おうとしても口角が持ち上がらない。顔の筋肉が全部抜けてしまったかのよう。私の反応を見て、両親は困ったような表情を浮かべた。

「ひまり、ツラいか?」

ツラいか、だなんて。

「大丈夫だよ」

そう言いながら手の力がゆるんで持っていた栞を床に落としてしまった。

「ひまちゃん、なにか落ちたわよ」

「さ、触らないで!」

重い身体をベッドから持ち上げ、屈もうとしたときにバランスを崩した。床に叩きつけられ、鈍い痛みが襲う。

「ひまり!」

「大丈夫?」

「……て」

「え?」

「帰って……! お願いだから、ひとりにしてよ」

優しくされると苦しくなる。

無理に笑わないで。

泣きそうな顔、しないでよ。

泣きたいのは、私のほうなんだから。

栞を胸に抱いて、キツく目を閉じた。