敵うわけない、こんな子に。今日の私はダメだ、卑屈になりすぎ。佐々野さんを見てモヤッとするなんて、心が狭すぎる。余裕がなさすぎだよ。
最近妙にイライラする。こんな自分、大嫌い。
「じゃあな、佐々野」
「うん、ごめんね、いきなり声かけて。またバイトで!」
「ああ」
なんとなく会話に入っていけずだんまりしている私の手をさり気なく取った。
「ごめん、偶然佐々野と会ってさ」
「うん、大丈夫だよ」
悟られないように笑顔を貼りつけた。
頬が引きつっているような気がする。いつまでこんなふうに笑えばいいんだろう。あんなに楽しみにしていた晴くんとのデートなのに、なんだか心が重い。
でも一緒にいられるのはうれしいから、無理にでも上げていかなきゃ。それに今日は晴くんの誕生日だから、素敵な一日にしたい。
いつもより遠出しようと言われて、電車で一時間かけて街へと繰り出した。電車が何本も通っていて、地下街も充実している都内の中心部。
歩いているとたくさんの人にぶつかって、身の置きどころがないほど窮屈。さっきトイレに行ったときは正面から思いっきり外国人に当たられて、カバンの中身をぶちまけてしまった。
「迷子になるなよ」
「うん……!」
晴くんの手をしっかり握って歩いた。流れが早すぎてついていくのに精いっぱい。
電車を乗り継いで、なんとか目的地に到着。チケットを買って観光名所であるタワーの展望台に登った。



