君がいればそれだけで。

覚えていないと知って悲しかったんだ。そういう一つ一つの思い出が俺と王女の心を繋いでくれている唯一の架け橋なんだと思っていたから。

「王女様はいつ目を覚ますのですか」

「一生だよ。彼女はもう起きない。触れるなら確かめてみなよ」

触れる訳がない。どれだけ伸ばしても触れられなかったし、正の心が体を踏みつけて押さえているんだから動ける訳がない。ヒューに教わったのか、体を動かす事が出来ないんだ。
それでもと手を伸ばしてみた時、俺の心がすっと軽くなった。触れられなかった指先に触れる事が出来たんだ。単純に考えれば王女が近付いてきてくれたんだろうけど、まだ倒れて意識が戻っていない。でも、俺の足から鎖が取れた訳でもないし先程よりも近寄れていないはず。