さて往復の所要時間とリフトの乗車時間と山頂で過ごしたい時間を

すべて見積もっても夕方早い頃までたっぷり時間があった。

暗くなる前に帰りの電車に乗る予定でいた。

私はスローな歩行速度を保った。

「お先に。」と気軽な声掛けをもらった。

それは嬉しいことであり

私も笑顔を出し惜しみせず手を振って応えた。

空気は澄み切ってしんとした中に森林の香りがした。

特に湿った土と枯れ葉が入り混じったような自然の香りに

気持ちが洗われるようだ。

「はあー!」

貴重なマイナスイオンを胸いっぱいに吸い込んで吐いた。

なんて気持ちが良いのだろう。

登山を楽しめる自分を誇らしく思えた。

この気持ちを誰かと分かち合えたらとも思うが

気の合う、相性の良いパートナーに巡り合える運は

私には持ち合わせていなかった。

登りをゆっくりと踏みしめながら進んだ。

このルートには揺れる吊り橋が途中にある。

橋の全長は30mあり

床板は厚く頑丈だが

手すりは両端とも太い縄で結んである。

公園の遊具やアスレチックにも使われているような極太のロープだ。

握ったらがっしりとしていそうだ。

吊り橋自体は全く問題ない。

眼下には小川が流れ

傾斜部の水流の音が心地よく耳に届く。

周囲の景観も素晴らしい。

私にとって橋が揺れる以外は。