恋はオーロラの 下で

移動中、約束だったニュージーランドの写真を海老原さんに見せてもらった。

「私も行きたい。自分の目に焼きつけたい。歩いてみたいです。」

どれもがため息が出るほどにまぶしく生き生きとした山の表情が見て取れた。

「コースがたくさんあり過ぎて選ぶのに迷うくらいだったから、余裕があれば連泊した方がいいと思う。」

「そうですか。海老原さんはまた行かれますか?」

「そうだね。休めれば行きたい。当分無理かも。」

私は行くなら海老原さんと行きたいと思った。

でもそれは彼には迷惑なことかもしれないとも思い

内心は悲しい気持ちでいたが

今回のフェスタを楽しむべきだと思い直し

過去に歩いた山々の話をたくさん聞き出そうと

私は海老原さんを質問攻めにした。

「おいおい、山の話は何時間あっても尽きないよ。一度にそんなに質問されたら何から話せばいいか。」

「すみません。私には山を語れる人がいないのでつい調子に乗ってしまって。」

「いや、構わないけど。いつも一人で登るの?」

「はい。きっかけは年の離れたいとこと尾瀬を歩いてからです。山を歩くことで自分が強くなれる気がして始めたのです。」

「そういう気持ちは俺もわかる。」

「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえたことがなくて、両親には大反対されていますので。」

「大反対って、どうして?」

「女がするものじゃないと言って、理解に乏しいんです、ウチは。」

「それはやっぱり娘を大切に思う親だからだと思うよ。」

「そうですね。」

私は海老原さんの言葉に自分が間違っていた気がした。

子を思う親心が全くわかっていなかったし

そんな風に思えなかった自分を恥じた。

気づかせてくれた彼に心の中で感謝した。

「克彦くんって、あの時骨折した?」

「そう、第一志望校に合格して、この春から部活に入ったと聞いたよ。」

「良かった。」

「生物部で、山も海も行くフィールド系らしい。」

「海老原さんに憧れたのではないかしら。」

「さあ、それはどうかな?」

海老原さんは電車の窓の向こうに流れる風景に目を向けた。

彼が今何を考えているのかでさえ知りたい。

私も口をつぐんで窓の外を眺めた。