天候の悪い日は室内でランニングマシンのベルトの上を走って汗をかいた。

トレーニングは続けた。

山々の新緑と

人知れずひっそりと風に吹かれて岩陰に揺れる可憐な花々

ライチョウのふっくらとした羽毛とクリッとした真っ黒い眼

溶けかけた雪が残るゴツゴツとした岩の斜面

雪解け水がキラキラと流れ落ちる沢と

そのガラスのように透き通った水のクリアなさまは

時間を忘れて魅入っていられるほどに私の心をもっていかれる。

そのすべてを頭に思い描いては山の美しさに胸を焦がした。

反して、山の厳しさを忘れてはならない。

同時に事故例や注意点、山々のルールや登山道の整備状況も調べつくした。

実際に登った人たちのコラムものぞき読むことで

私の目の前に山頂の景観が広がった。

PCの壁紙のように。

「その節は大変お世話になりましてありがとうございます。」から始まる長文メールを海老原さんへ送信した。

「後日確認しよう。」と受信があった。

その返信の短さに私は笑い転げた。

「あは、あははは。」

何度読み返しても笑えた。

彼のあの時の顔とあの声とあの眼鏡のレンズ越しに見た眼を思い出して

そのひと言を当てはめてはひとしきり笑った。

なんて単純明快な返事なのだろう。

これ以上でも以下でもないキッパリ感があった。

私にとってモヤモヤする必要がなく

表も裏もないあまりにも率直な言葉に

男性としてではなく登山家の一人として尊敬できる存在と思っていい。