「ここの助詞の定義は試験に出すぞー。センターでも選択問題で聞かれることがあるから覚えておけよー。それから…」
6月になった。
連日の気温の上昇でグラウンドの砂はカラカラ、生ぬるい風が身体にまとわりつく時期だ。
(試験に出る……、っと)
3時間目の古典の授業。いつも通りのハイペースさに少しの焦りを抱きながら蛍光ペンを滑らせる。
空腹や寝不足から、眠い目を擦りながら板書をとる生徒がちらほらいて
時折船を漕いでいる香月くんと、その後ろの席で背中をつついて起こす麗ちゃんが見えて思わず笑ってしまう。
それでも机に突っ伏して寝ている生徒が誰ひとりとしていないのは
完全進学校の桔梗らしいというべきか――…
――バコンッ!!
「バカモンがァ!!!」
「…いっ…てぇ!!」
…訂正。
机に突っ伏して寝てる生徒、普通に1人だけいました。窓側の一番後ろ、つまりわたしの後ろの席に。
「神谷ァ!!お前というやつは本当に!!たまには真面目に板書とらんかっ!!」
教科書を丸めて頭を叩くと鳴る特有の鈍音。
間髪入れずに降りかかるお説教の轟音に、「彼」は怠そうに寝惚け眼を擦る。
「今日くらい見過ごせよ山ちゃんー…。俺昨日まで地獄にいたんだって…」
「地獄にいようがいまいがお前は板書をとらんだろうが!」
「おはよう麻見」
「っ!あ、おはよう…」
「人の話を聞かんかァっ!!」
「「あははっ!!」」