――コンコンコン 「はい」 「失礼…しますっ」 荷物を持ったまま、扉の前で息を整えて 何度も胸が高鳴ったその場所へと足を踏み出す。 久しぶりに聞く、控えめな彼の声に身体が疼いた。 「……菜穂…?」 「っ…会長、」 「…何しに来た」 細められ、冷酷な圧すら感じる目と声色は 神谷くんが会長に向けたものに似ていた。 (大丈夫、大丈夫…っ) 正直に怯んでしまいそうになった一歩を ゆっくり深呼吸をして戻す。