「…うん。そうだったよね」
まるでそれが嘘かのように
最初から無かったかのように
現在、完全無欠の生徒会長を務めている彼。
昨年の彼は暦先輩とともに生徒会役員でありながら
部としてはもちろん、個人の選手賞も幾度となく獲って表彰されていた人だった。
学校での部活表彰の時だって
主将や副主将の3年生とともに、毎回ステージに上がっていたのは絶対に彼だった。
それなのに。
いつからか、その「毎回」は
――…すべてが幻になっていた。
「中学まではヨミさんもやっててさ」
「え…っ?暦先輩ってずっと弓道じゃ…」
「いや。本人は聞かれない限り言わねぇけど、主将がヨミさんで蓮がエースだった。全国ベスト4までいったんだ」
神谷くんのどこか疲れた声色に
わたしの胸が締め付けられる。
「…雨宮のお祖父さんのことは知ってるか?」
「範士…だっけ、凄い実力の持ち主だって」
「そう。ヨミさんはお祖父さんの弓道を受け継ぎたいから、サッカーは中学で辞めるって最初から言ってた」
「…そうだったんだ…」
「…雨宮の家は元々武道一家だし素質もあったんだろうけど。県で一番の強豪って言われる桔梗の弓道部で、今じゃ誰もが認める主将だからな」
「さすが暦先輩だね…!」
「…ん。みんなから言われるそのイメージを守るために、常に完璧に見られるために、裏で血を吐くような努力した結果だ」