掠れていながらも
確かに聴こえるその声が
わたしを呼んでくれることに、どうしようもなく愛しくなる。
――…でも。
(…っ…!?)
「いつもと違う」のは、気のせいではなかった。
必ず優しさを忘れずに
触れてくれていたはずの大きな手が
乱暴で力強くて、苦しいくらい
冷たさだけを含んでわたしに触れる。
(…こわい…っ!)
「……いやっ…!!」
妙に響いたその乾いた音は
わたしが彼の手を退けた、もっともな証拠だった。
…我に返ったひび割れそうな心が、温かさを失っていく。
ちがう、
ちがうの、
「………」
「…ごめ、…なさっ…」
「…悪かった。もう帰りな」
「っ違うんです、わたし…」
「ごめんな菜穂。…帰って」
わたしが彼の手をはらって、拒絶してしまったこの時が
今にも壊れそうな儚い声で、彼がわたしを拒絶したこの時が。
歯車が確実に狂ったのだと理解した
はじめての瞬間だった――…。