「…考えてみれば、今までこんなこと無かったかも」
「……そうなんだよね。“菜穂ちゃんだからこそ”、なのかな」
外見、学力、運動能力、人望。
完全無欠と謳われる言葉が誰よりも相応しい蓮に
今まで好意を寄せ伝えていた女は当然数知れずいた。
それをすべて断ってきたのは、あの「彼女」の存在があるからだと
暦も麗も勝手に信じて疑わなかったのだが。
それが違うのならば
どうして蓮は
もうすぐ帰国する存在を理解していながら、菜穂を――…。
(…こんなに偏頭痛が酷いの、いつ振りよ…)
霞む視界に、麗は再び顔を覆った。
「菜穂はあたしが全く気付いてないと思ってるし、きっと蓮に口止めされてるんだろうし。…とりあえず今は何も知らないふりするね」
「…僕もあんまり首を突っ込むと、命がいくつあっても足りなくなりそうだ」
「あははっ、何それ」
「笑い事じゃないよ、事実さ」