『大好きっ』


突然、頭の中にその言葉が浮かんで来た。

大好き…


あ…


じいちゃんが怪我をする前日。

僕はじいちゃんに、『大好き』と言った。

お母さんが怪我をする数10分前。

僕はお母さんに、『大好き』と言った。



『僕が…大好きなんて、言ったから?』


冷静に考えれば、ただの人間が"大好き"の一言を言った位で考えにくい。

それでも、その当時の僕は、立て続けに連続で家族が怪我をした事と、その当時流行っていたサイコサスペンスの影響(これが一番大きい)と、まだ幼かった事から、その結論が正しいと信じ込んでしまったのだ。




あれから10年。

もちろんその結論が絶対に正しいと、信じて疑わなかった訳じゃない。

それでも、一度その結論を信じて、

1年、2年、3年…

そこまで続くと、もうその結論が真実かどうかを確かめるのも怖くなっていた。

もし確かめて、その相手が死にでもしたら…


だからもう、俺の口からは、自分からの"好き"なんて想いの籠もった言葉は出なくなっていた。


『空って冷たいよね』

そう言われても構わない。


深入りすれば好きになるかもしれない。

好きになったら、その言葉を言ってしまうかもしれない。

だから、良いんだ。


『だから何?』

そう笑顔で言えば、大抵の奴は離れて行くから。

俺に言葉を求めないで。

俺は、"好き"にはなりたくないから。