キミは当て馬、わたしはモブ。




「そういえば思い付いたお兄ちゃんとの勝負ってなんなの?」


「勝負ではないです」


「え?」



 数学の式を書いていたシャーペンの芯がポキリと折れた。


 圧を感じた気がして目線を上に向けていくと、目の前に帝塚くんの顔。ちょうど手に持ったシャーペンくらいの距離だ。


 いくらなんでも近すぎる。距離感バグ継続中か?



「勝てばいいんですよね。俺が、お兄さんに」



 え……そりゃあ帝塚くんがお兄ちゃんに勝てるところなんていくらでもあるけど……。


 それでお兄ちゃんは納得できるのかな? だからこそ、平等な勝負をわたしは考えてたわけなんだけど。



「……あ、いけません」



 数秒見つめ合っていると、そう言って急に顔を逸らす帝塚くん。


 わかりやすいところはとことんわかりやすいけど、未だにこういうことはよくわからないなぁ。



「危うく佐久良にキスするところでした」



 かと、思ったら……こ、こいつ……っ!


 くそう、さっきまでわたしが優位だったのに! やっぱり調子乗ってる! むかつく!


 顔を真っ赤にして怒りに震えるわたしに、帝塚くんは慣れたように笑みを返してきた。


 それはまるで生後間もない赤ちゃんに向けるような、微笑ましい笑み。と、同時にすっと手を握ってくる。



「それやったらわたしが喜ぶと思うな!」



 すぐに手を弾き、その勢いで眼鏡にべっとりと指紋を付けてやった!