あいつらのいじめに耐え抜き、学生の本分である勉強と魔物狩りをこなす平日。疲れるけど忘れてはいけない、その先に沙良木と過ごせる休日があるのだ。

朝起きて初めて鏡を見ると顔色がよかった。疲れで重く垂れたまぶたもぱっちりと上がっている。
化粧をしない私にとってはとてつもない強化魔法だった。

朝ご飯を食べながら、(向こうの厚意だから当然と思ってはいけないけれども)お菓子のことを考えていた。沙良木の家ではよくバームクーヘンを出してくれて、それを食べると沙良木の家に来たんだと実感していた。

今日の朝の思考は沙良木一色になっていたし、余程のことがない限り今日一日沙良木のことを考えるだろう。

お母さんには友達と遊ぶ、まずは遠くの本屋に行って良い参考書がないか探してくると申告していた。

なんてことない風に手を振って家を出た途端、軽い足取りで進み出る。

沙良木の家に着くと呼び鈴を鳴らし、ドキドキしながら立って待っていた。沙良木の両親は男女交際に厳しいどころか私がくると喜んでくれるので、このドキドキは緊張ではなくただ沙良木に会えるのが嬉しいだけのことだ。

「来てくれてありがとう。今日は二人ともいないから挨拶はいいよ」

首を横に振って隠されている片目が見えたけど、それを気にしないのは気を許してくれているから。

午前の柔らかい日光を浴びて、色素の薄い髪はいつもより軽やかに見えるし、声をこもらせるマスクもない。

普段重く閉ざされている表情を明瞭に見せてくれるから、沙良木の家に来るのが好きなんだ。