魔物に殺されたかと思ったら、真っ白な空間に立っていた。結局願いは叶わなかったな。
仕方がないと割り切ろうとして、自分以外の存在に気付く。
目の焦点が定まり、約束を持ちかけたあの男を見た。
「おーい、ここはどこー?」
もう願いも何もないからへり下るのも忘れて呼びかける。男は驚いたように振り向き、面倒そうに首を傾げる。
「なんだ、ここに来たのか」
「うん。ねぇどうすればいいの?こんな何もないところにずっといろって?」
本当なら困る、という不満混じりで聞き続ける。死後の世界があるなら天国にはいけないと思っているけど、無の空間なんかに置かれて困惑しているんだ。
「私にもわからぬ」
「えぇ……じゃあここが地獄?それとも何かの条件で次の場所に進めるとか?」
見回しても引っかかるところがない、果てしなく広がる白。下を見れば床ですらなくて、地に足がついてない。
「他のみんなは願い叶えられるのかな……三河には気を付けろよ……」
暇すぎて独り言を言っていると、男が鼻で笑うのが聞こえた。
「願いなど最初から叶える気はないぞ。お前たちとは契約の正式な手順など踏んでいない、ただの口約束だからな」
「は、ただ働きさせんの?あんたに死体やったよね?」
真顔での信じられない言動に詰め寄って睨みつけると、男は諦めたかのように俯いた。
「男の死体か……仕方ない、お前の願いだけは叶えてやろう」
「寛大な処置に感謝しますぅ〜」
「お前は私の脅威にならないが面倒だからな……。叶えたらもうついてくるな」
約束破っておいて私だけなんてケチくさい。でもこれ以上の報酬を引き出せる気はしなかった。欲出して全員分叶えてもらおうとしたら怒られそうだし、それで跡形もなく潰されたらたまったもんじゃない。
私は死んじゃったんだし、願いくらい叶えてもらっていいよね。
「それで、願いは何だ……?」
「願いは……」
一度死んだ私にあれが欲しいとか俗な願いは思い浮かばなかった。やっぱり願うなら……。
「三河をいじめる前の……四月に戻して」
「それでいいんだな。では戻すぞ」
男の杖からどす黒い円が出て、内側に向かい数字や謎の文字が配置されていく。そして黒いものが渦を巻いて目の前に迫り、ぎゅっと目を閉じた。
目を開ければ、淡い春の日差しに満ちた教室へいた。見慣れたクラスメイトだけどどこか余所余所しく過ごしている姿が新鮮に感じる。
その教室の前から二番で教卓から見て右側にいる、眼鏡をかけた真面目そうな女子へ目を移す。
教室の奥の方ではいつもの四人が固まっていた。来ないの?という視線をちらりと向けてきた。
後で行く、今は……。
私はあの日、三河が嫌いだった。公立しか行けないから怯んでこの高校に入り、真面目ぶるのが馬鹿らしくなり出したとき、三河はこの学校でも流されず自分の色を保っていた。
自己紹介でもみんなが好きな食べ物や趣味を言う中で得意科目を言い、ほとんどが無言で着席する号令も声を出した。
休憩時間に開いていた問題集もこの学校に相応しくないレベルで、優等生な外見は伊達じゃなかった。
私が捨てた真面目な生き方、私にない学力。
それが気に入らなかった。
三河の机に歩み寄り、目を合わせる。殺されたときのことが蘇りそうだったけど、あの日、いや今日思っていたことを思い返す。
「灰色の目、綺麗だね」
口から飛び出る八つ当たりは捨て、本当のことを言った。
仕方がないと割り切ろうとして、自分以外の存在に気付く。
目の焦点が定まり、約束を持ちかけたあの男を見た。
「おーい、ここはどこー?」
もう願いも何もないからへり下るのも忘れて呼びかける。男は驚いたように振り向き、面倒そうに首を傾げる。
「なんだ、ここに来たのか」
「うん。ねぇどうすればいいの?こんな何もないところにずっといろって?」
本当なら困る、という不満混じりで聞き続ける。死後の世界があるなら天国にはいけないと思っているけど、無の空間なんかに置かれて困惑しているんだ。
「私にもわからぬ」
「えぇ……じゃあここが地獄?それとも何かの条件で次の場所に進めるとか?」
見回しても引っかかるところがない、果てしなく広がる白。下を見れば床ですらなくて、地に足がついてない。
「他のみんなは願い叶えられるのかな……三河には気を付けろよ……」
暇すぎて独り言を言っていると、男が鼻で笑うのが聞こえた。
「願いなど最初から叶える気はないぞ。お前たちとは契約の正式な手順など踏んでいない、ただの口約束だからな」
「は、ただ働きさせんの?あんたに死体やったよね?」
真顔での信じられない言動に詰め寄って睨みつけると、男は諦めたかのように俯いた。
「男の死体か……仕方ない、お前の願いだけは叶えてやろう」
「寛大な処置に感謝しますぅ〜」
「お前は私の脅威にならないが面倒だからな……。叶えたらもうついてくるな」
約束破っておいて私だけなんてケチくさい。でもこれ以上の報酬を引き出せる気はしなかった。欲出して全員分叶えてもらおうとしたら怒られそうだし、それで跡形もなく潰されたらたまったもんじゃない。
私は死んじゃったんだし、願いくらい叶えてもらっていいよね。
「それで、願いは何だ……?」
「願いは……」
一度死んだ私にあれが欲しいとか俗な願いは思い浮かばなかった。やっぱり願うなら……。
「三河をいじめる前の……四月に戻して」
「それでいいんだな。では戻すぞ」
男の杖からどす黒い円が出て、内側に向かい数字や謎の文字が配置されていく。そして黒いものが渦を巻いて目の前に迫り、ぎゅっと目を閉じた。
目を開ければ、淡い春の日差しに満ちた教室へいた。見慣れたクラスメイトだけどどこか余所余所しく過ごしている姿が新鮮に感じる。
その教室の前から二番で教卓から見て右側にいる、眼鏡をかけた真面目そうな女子へ目を移す。
教室の奥の方ではいつもの四人が固まっていた。来ないの?という視線をちらりと向けてきた。
後で行く、今は……。
私はあの日、三河が嫌いだった。公立しか行けないから怯んでこの高校に入り、真面目ぶるのが馬鹿らしくなり出したとき、三河はこの学校でも流されず自分の色を保っていた。
自己紹介でもみんなが好きな食べ物や趣味を言う中で得意科目を言い、ほとんどが無言で着席する号令も声を出した。
休憩時間に開いていた問題集もこの学校に相応しくないレベルで、優等生な外見は伊達じゃなかった。
私が捨てた真面目な生き方、私にない学力。
それが気に入らなかった。
三河の机に歩み寄り、目を合わせる。殺されたときのことが蘇りそうだったけど、あの日、いや今日思っていたことを思い返す。
「灰色の目、綺麗だね」
口から飛び出る八つ当たりは捨て、本当のことを言った。



