偏差値は四十の普通科高校。

その一年二組は荒れていた。

「三河、宿題やってよ」

一井(いちい)という長身の女子がメガネをかけた女子の机に寄ってきて、四冊のノートを滑り込ませる。

「なんであなたのなんか……!」

三河 光起(みかわ みつき)は机上のノートに手をつける前に、鋭くつり上がった目で睨みつける。照明か太陽の光か、メガネの縁がギラリと光っていた。

反発した三河に対して一井は平然と見下ろし口を開く。

「いいじゃん、ガリ勉にはこんな底辺校の宿題なんか物足りないでしょ?」

「宿題やるか教科書捨てられるか、どっちがいい?」

後からやってきた茶髪の女子、海堀(うみぼり)は机に手をついて三河の顔を覗き込み、選択を迫る。すると三河は歯を鳴らして引き出しからノートを取り出した。

綺麗にまとめたノートをそのまま写していく。写している間一井は黙ってスマホをのぞいていたが、受け取った途端声を上げる。

「ちょっと字全く同じじゃん!写したって言われるでしょ!」

「知らないわよ自分でしないからこうなるんでしょ!」

文句と共に開いたノートを指で叩いて見せつけられたが、次のノートに取り掛かっていた三河はそれに目を向けることなく声を荒らげる。

「私の分は今から直しておこうかな。私の字は右上がりだよ」

海堀は自分から見て右上がりの線を空に引くと、三河は当てつけのように平行に伸ばした。

「ちょっと先生も来るし……最悪!」

一井は廊下の足音を聞きつけ悪態をつくと、ノートを開いた状態でドアを睨む。
宿題をさせているところが見つかるかもしれない焦りと、三河が自分の言う通りにしないことから、五人は苛立ち始める。先生の足音は着実に近付く。しかし……