そうして、毎週のように木村先生と会うようになり、今度は休日に会場の下見に誘われた。

会場は、有名なフレンチレストランチェーンのAccueil(アクィーユ)。

なんでも、夕凪先生のお相手がAccueil(アクィーユ)の社長さんなんだそうだ。

レストランの二階にあるパーティー会場は、上品で落ち着いた空間だった。
相応の華やかさはあるものの、結婚式場にありがちな、けばけばしさはない。

「素敵…」

思わず、感想が口を突いて出る。

「本当ですね。
松井先生も結婚したくなったんじゃ
ありませんか?」

木村先生に覗き込まれて、また心臓が跳ねた。

「いえ、私なんか、とても…」

私は俯いて手を振る。

「松井先生、いつも『私なんか』って
おっしゃいますけど、
それは謙遜ですか?
こんなに可愛らしいのに、そんな風に
へりくだると、卑屈に見えてしまって
もったいないですよ?」

え!?
どうしよう。
私、何か不快にさせた?
でも、他に言いようもないし…

「あ、あの… 」

私が勇気を出して顔を上げると、木村先生は優しく微笑んでいた。

「松井先生は、しっかりしてらっしゃるのに
変なところで子供みたいですね」

え…
えっと、これは、なんで返せば… ?

「さ、せっかく来たので、下で食事をして
帰りましょう」

木村先生に促されて、一階のレストランに向かう。

フレンチのフルコースは、時間がかかる。

その間、私の心臓は、壊れそうなくらい早鐘を打っていた。

こんなこと、初めて。

私は自覚せざるを得なかった。

これが私の初恋だって。

33歳。
こんな歳になって、男の人を好きになるなんて…
これが運命の出会いだったら、良かったのに。
どうせ報われないなら、こんな感情知らなきゃ良かった。


………いえ、やっぱり、この想いに気付けて良かった。
たとえ仮初めでも、この人に出会えて良かった。
一生、この人をひっそりと想って生きていける。
それだけで、恋を知らずに一生を終えるよりは、きっと幸せだと思う。