4月も半ばを過ぎたある日、私が担任する女子児童の1人がやってきて言った。

「ねぇねぇ、松井先生!
夕凪先生、結婚するんだって」

夕凪先生というのは、2年3組の担任。

今年度、市内の別の小学校から転任してきた7年目の先生。

確か、28歳。

「夕凪先生がそう言ったの?」

学年主任の私が聞いてないのに、先に子供に伝えるかしら?

「ううん。
あのね、3組の亮太(りょうた)くんの
お母さんがね、結婚指輪を買いに来たところを
見たんだって」

ああ、確か亮太くんのお母さんはテレビCMもしてる有名な宝飾店にお勤めだったはず。
授業参観でも、素敵なネックレスやピアスをしているのを見かけたことがある。

「そうなんだ。
夕凪先生、かわいいから、
きっと素敵なお嫁さんになるでしょうね」

「松井先生は?
結婚してるの?」

う…
聞かないで欲しかった…

「先生はまだなの」

私は渋々正直に答える。

「ええ!?
松井先生の方がかわいいのにぃ」

ふふっ
かわいいこと言ってくれるなぁ

「ありがとう」

「松井先生、何歳?」

うぅ……
さらに聞かれたくないのに…

「33歳」

「ええ!? 20歳くらいかと思ったぁ」

「ほんと?
じゃあ、20歳ってことにしておこうかな」

 子供は無邪気でかわいい。
無邪気に触れて欲しくないところにもグサグサと入り込んでくるけど。


でも、そうかぁ。
夕凪先生、結婚するんだ。
私は一生、独身かな。