「………どうしたの、飯島さん。そんなに慌てて。何かあったの?」

話すときに間があり、〝君〟ではなく〝さん〟だった。
何でだ………?
さっきまではいつも通りだったのに。
あの別れたあとか?
それからおかしくなったのか?
わからない。

「あの………せんぱっ」

言いかけた時だった。

《1年生による綱引きです。1年生は移動してください》

というアナウンスが流れた。
だから行かなきゃいけない。
だって俺………1年生だもんな。

「先輩、待っててくださいね!」

俺は走って行った。
先輩が心配だけど行かなきゃいけない。
本当に変わってしまったんだ。
〝君〟から〝さん〟に。
それは俺が変えてしまったのだろう。
だってあの時まではいつも通りだったんだから。

『飯島君』

そう呼んで欲しい。
〝さん〟なんかではなくて………。

『飯島君!』

そう呼んで欲しい………。

「位置について………よーい、ドンッ!」

一気に最初の人たちがスタートした。
俺はアンカーだから最後まで見守る。
だけど頭の中では先輩のことばかり。
早く元に戻ってほしい。

『人が苦手なんだって』

今まで気にしていなかった。
だって先輩はだんだん打ち解けてくれていると思ったから。
だから大丈夫だと思ったんだ。