私は今日も屋上に来ていた。
空は淡くオレンジを混ぜながら雲とともに流れていく。
私は内側に反り返っている柵に手をかけ、外を見渡す。
ぱらぱらと歩く人達、流れる車、揺れる木々。
目を閉じればそれらは見えなくなる。代わりに、さわさわ、かたかた、ふぉうぅ……。風が聞こえる。風が私の体に触れているのがわかる。

目を開ける。

「私も、こんなふうに自由になりたい」

ここはまるで鳥かごだ。
年齢別に押し込まれる牢獄のようだ。
ただでさえ無理矢理押し込まれたこの場所は、快適な環境とは名ばかりの牢獄。無理矢理すり合わされたこの世界は、必ず爪弾き者を作らないと成立しない不条理な世界。ここを社会の縮図と言うのなら、なんてひどい世界だろう。
規律を学び、円滑な人間関係、人格の完成を目指す場所と言いながら、結局は誰かを弾いて、追い出して、指を指すことがそれならば、この世界は最低な生き物を作り出す工場だ。誰かと繋がるために誰かを弾くことが当たり前で、正しくて、私にもそれを押し付けようとする。
そこから逃げたくて屋上に行く。
誰もいないから、今ここは私一人しかいない世界だ。
でも結局逃げられない。この柵が、私を鳥かごから逃がしてはくれない。柵に蓋はない。私に羽があれば飛べたのだろうか、いや、本当は羽がなくても飛べるんだ。
でも、いつも私は柵を掴んで、ぼんやりと光を受け止めながら外を見るだけ。

「飛びたい……飛んでみても、いいのかな?」

柵を掴む手に力が入る。
簡単、上に行けばいい、そうすれば鳥かごから出れる。簡単。

「飛んでみても、いいよね」

いつもより高い場所を掴む。
足をかけてみる。
少し体が浮き上がる感覚が、私の心を浮かばせる。

でも、それを窘めるように、風が私の体に触れてくる。擬似的な浮遊感。
体を通り抜けて心臓を触るような感覚。
急に怖くなって手を離した。

「どうして」

どうして飛ばせてくれないの?
なんで止めるの?
私はただ、風になりたいだけなのに。

でも、こうしてまた鳥かごの中に戻ってしまったのは、私が選んだことなんだ。
風に逆らって、空を切ればよかったのに、しなかったのは、私。
私。

もう秋も終わりかけなのに、ぬるい風が私を包み込む。それが優しくて、優しくて、私はまた目を閉じた。
顔に当たった風だけは、少し冷たかった。